哲学覚書

Horty (2014) の覚書

標準義務論理

公理系

標準義務論理は、公理系としては様相論理KDに等しい。

(TAUT)命題論理のトートロジー
(K)$\lo(\phi\to\psi)\to(\lo\phi\to\lo\psi)$
(D)$\lo\phi\to\lnot\lo\lnot\phi$
(RON)$\vdash\phi$ ならば、 $\vdash\lo\phi$

次の公理系も証明力はKDと同じである。

(TAUT)命題論理のトートロジー
(OC)$(\lo\phi\land\lo\psi)\to\lo(\phi\land\psi)$
(OD)$\lnot\lo\bot$
(ON)$\lo\top$
(ROM)$\vdash\phi\to\psi$ ならば、$\vdash\lo\phi\to\lo\psi$

意味論

意味論は、$\mathcal{M} = \braket{W,h,v}$ というモデルに基づき定義される。$W$ は可能世界の集合、$h$ は $h: W\longrightarrow \mathscr{P}(W)$ なる写像(値として空集合は取らないものとする)、$v$ は付値関数。$|\phi|_\mathcal{M} := \set{w \mid \mathcal{M},w\vDash\phi}$とする。このとき義務文の真理条件は次の如く定義される。

$\mathcal{M},w\vDash\lo\phi \iff h(w)\subseteq |\phi|_\mathcal{M}$

 

次の特徴がある。

  • すべての世界が利用可能である。
  • 選好順序は、諸世界を二つのカテゴリー(すなわち、よい世界と悪い世界)に分けるだけである。

 

$\mathcal{M} = \braket{W,R,v}$ として、到達可能関係 $R$ によって定義する方法もある。$R$ は $W$ 上の継続的な二項関係。

$\mathcal{M},w\vDash\lo\phi \iff wRw'$ なるすべての $w'$ に対して $\mathcal{M},w'\vDash\phi$

$h(w) := \set{w' \mid wRw'}$ とすれば上のモデルに変換可能であると思われる( $h(w)$ が空集合とならないことと $R$ が継続的であることとが同値だと言えればよい)。ところで、どの様相論理もこの仕方で変換可能なのであろうか。

クラッツァーの義務論理

クラッツァーの義務様相の意味論は、現在「標準的」と見做されている1。クラッツァーは言語学者であるが、この意味論はデイヴィッド・ルイスの可能世界論に基づいているとか。

公理系

クラッツァー自身が公理系を示しているかどうかは不明だが、以下の(制限を加えた)モデルによって定義されるトートロジーの集合は標準義務論理のそれと等しくなるようである。正確な理解のためにはクラッツァー本人の論文を読む必要がありそうである。

意味論

モデルは $\mathcal{M} = \braket{W,f,g,v}$。$W$は可能世界の集合、$f$は様相基盤(modal base)、$g$は順序源(ordering source)、$v$は付値関数。$f$と$g$は「会話背景」と呼ばれる。

この意味論は、標準義務論理の意味論を二つの仕方で一般化したものである。

第一に、利用可能な可能世界は制限されている。$f$は$f:W\longrightarrow \mathscr{P}(\mathscr{P}(W))$なる写像(可能世界を取って命題の集合を返す写像)であり、$\bigcap f(w)$が様相基盤として用いられる。ただし$\bigcap f(w)$は空集合ではないものとする(つまり$f(w)$は矛盾した集合とならないよう定義する)23

第二に、選好順序がより複雑に定義される。選好順序は順序源によって定められる。$g$も、$f$と同じく可能世界を取って命題の集合を返す写像。ただし$g(w)$は矛盾集合であってもよい(義務同士が矛盾することはありうる、ということを表現するため)。直観的には、$g(a)$は「可能世界aにおける義務の集合」を表す。

$a,b,c\in W$に対し、順序関係$\leq_{g(a)}$を次のように定義する。

$b\leq_{g(a)}c \iff$ 任意の $|\phi|\in g(a)$ に対し、$c\in|\phi|$ ならば $b\in|\phi|$

直観的には、$b\leq_{g(a)}c$ は「世界bのほうが世界cよりもよい」を表す。

義務文の真理条件は次の通り4

$\mathcal{M},a \vDash \lo\phi \iff$ 任意の$b\in\bigcap f(a)$ に対して $b\leq_{g(a)}c$ となる $c\in\bigcap f(a)$ が存在し、 任意の $d\in\bigcap f(a)$ に対して $d\leq_{g(a)}c$ ならば $d\in |\phi|_\mathcal{M}$

 

上の定義は複雑である。しかし、$g(a)$が有限集合である場合には簡略化できる。まずいくつか定義しておく。

$b<_{g(a)}c \iff b\leq_{g(a)}c$ かつ $c\not\leq_{g(a)}b$

$\mathit{Best}_{g(a)}(|\phi|) := \set{b\in |\phi| \mid \lnot\exists c\in |\phi|(c<_{g(a)}b)}$

$g(a)$が有限集合である場合、クラッツァーモデルはストッパーつき(stoppered)である。つまり、任意の$b\in\bigcap f(a)$に対し、$b\in\mathit{Best}_{g(a)}(\bigcap f(a))$であるかまたはある$c\in\mathit{Best}_{g(a)}(\bigcap f(a))$が存在して$c\leq_{g(a)}b$。

$\mathcal{M} = \braket{W,f,g,v}$はストッパーつきクラッツァーモデルであるとする。このとき義務文の真理条件は以下のようになることが証明できる。

$\mathcal{M},a\vDash\lo\phi \iff \mathit{Best}_{g(a)}(\bigcap f(a))\subseteq |A|_\mathcal{M}$

ある標準義務論理のモデルが与えられたとき、$f(a) = \set{W}$、$g(a) = \set{h(a)}$とすれば、クラッツァーの論理と標準義務論理とは一致する。逆にあるクラッツァーモデルが与えられたとき、$h(a) = \mathit{Best}_{g(a)}(\bigcap f(a))$としても、クラッツァーの論理と標準義務論理とは一致する。

参考文献

  • Horty, John F., “Deontic modals: Why abandon the classical semantics?”, Pacific Philosophical Quarterly (Special Issue on Deontic Modality, Stephen Finlay and Mark Schroeder, eds.), vol. 95 (2014), pp. 424–460.
  • 蝶名林亮編著『メタ倫理学の最前線』勁草書房、2019年。

  1. 主に自然言語意味論の分野において、ということだと思う。義務論理学者がクラッツァーの理論をどう思っているのかはいまいちよく分からない(実際、SEPの「義務論理」の記事にもクラッツァー理論は紹介されていない)。 ↩︎

  2. 文献によっては空集合もありだということになっている。 ↩︎

  3. 様相基盤は到達可能性$h(w)$を特定する、と言うこともできる(その逆は成り立たない。つまり到達可能性が様相基盤を特定することはない)。もっとも、到達可能性$h(w)$に相当するのはむしろ順序源$g$であると言ったほうが両体系の比較がしやすいようにも思う。 ↩︎

  4. MathJaxでこれを入力するとき、アンダーバーが強調と見做されてうまくいかなった。一行にアンダーバーが二個以上あるときは、「\_」のようにしてバックスラッシュでエスケープする必要がある。 ↩︎

2020年2月12日
2021年8月14日
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