哲学覚書

義務論理の覚書

4. Challenges to Standard Deontic Logics

4.4 Puzzles Centering Around NC, OD and Analogues

サルトルのジレンマ(Lemmon 1962b)

義務の衝突とは、二つの義務がありその二つを同時に満たすことはできないような状況のことである。

  1. ジョーンズに会うべきだ(ジョーンズとそう約束したので)。
  2. ジョーンズに会わないべきだ(スミスとそう約束したので)。

このような状況はありうると思われるが、この状況を標準義務論理で記述するとOj∧O¬jとなり、論理的にありえない状況だということになってしまう。

関連する問題として、「カントの法則に関するパズル」や「ファン・フラーセンのパズル」がある。

プラトンのジレンマ(Lemmon 1962b)

  1. 正午、昼食のためにあなたに会う義務がある。
  2. 正午、窒息した子供のために急いで病院に向かう義務がある。

ここには間接的で非明示的な義務の衝突がある。サルトルのジレンマの場合と違い、この状況では「どうすべきか分からない」などとはならず、明らかに子供を助けるほうを優先させるべきである。通常、子供を助ける義務は、他のどんな義務よりも優先するもので、すべてのことを考慮したうえでの上書きされない義務(all things considered non-overridden obligation)であるとわれわれは見做すだろう。さらに、約束を守る義務は例外があり、この状況は約束を破っても情状酌量の余地があるとわれわれは言いがちである。「義務的ジレンマ」という語を「二つの義務のうち一方が他方に優先するということはない状況」と定義するならば(cf. Sinnott-Armstrong 1988)、プラトンのジレンマの状況は、義務の衝突の状況ではあっても義務的ジレンマの状況ではないことになる。義務的ジレンマと義務の衝突とを一旦区別したならば、一方が他方に優先するとか、ある義務が撤回されるとか、ある義務はすべてのことを考慮したうえでの上書きされない義務であるとか、ある義務は義務的ジレンマの一部であるとか、ある義務は一般に成り立つが例外がないわけではないとか、ある義務は例外がなく絶対的に成り立つとか、そういう義務の衝突についての推論の論理をいかに形式化するかという問題があることに気づく。それゆえ、ここでの中心的問題は、異なる重みづけをもった義務同士の衝突の問題、および義務の撤回可能性の問題である。明らかに標準義務論理にはこの問題を解決するメカニズムはない。

このジレンマに対しては、また義務の衝突における撤回可能性に対しては、様々なアプローチが為されてきた(注48)。

注48

von Wright 1968は、悪を最小化することが衝突の解決への自然なアプローチであると考え、それゆえ順序に依存したある種の最小化を提案した。

Alchourron and Makinson 1981は規制の半順序関係と規制の集合を通して衝突の解決に対する初期の形式的分析を与えている。

Chisholm 1964は概念的にきわめて影響力をもってきた。例えばLoewer and Belzer 1983がそう証言している。

倫理学理論において、非形式的・概念的な画期的成果はRoss 1939である。

Horty 1994はきわめて影響力のある議論をしている。その議論は、人工知能研究において開発された(see Brewka 1989)ライターのデフォルト論理と、van Fraassen 1973による義務の衝突に対する初期の影響力のあるアプローチ(選好順序と命令的アプローチとを結びつけるアプローチ)とを結びつけるものであった。

Prakken 1996は、ホーティのアプローチと代替案について議論している。その代替案では、衝突の扱いは撤回可能性要素のみに委ねられるべきだと議論し、義務的要素と撤回可能性要素とを厳密に分離している。撤回可能性に関する広範囲の議論と、この文脈における義務論的条件法の位置については、Makinson 1993も参照せよ。

義務論理における撤回可能性への別のアプローチは、撤回可能条件法についての撤回可能推論をモデル化するために人工知能研究において開発された意味論的技法と親和性をもつ。Asher and Bonevac 1996やMorreau 1996はそのアプローチを取る。どちらも、ロスの一見自明の義務の概念に類似した概念を表現しようと試みている。

撤回可能性と条件法についての議論として同じく注目に値するのはAlchourron 1993, 1996である。そこでは、修正演算子(revision operator)が厳密含意演算子や厳密単項義務演算子と結びつけられて用いられている。

ここで、Alchourron 1996、Prakken 1996、Asher and Bonevac 1996、Morreau 1996、Prakken 1996はすべてStudia Logica 57.1, 1996に収録されていることに注意せよ。

Nute 1997は義務論理の撤回可能性に専念しており、ニュート自身を含む多くの主要な論者による記事を含む、このトピックに対する最良の単一の情報源である。

Bartha 1999は、分岐時間フレームワークと行為者性演算子のうえの、義務違反時の義務へのアプローチおよび撤回可能条件法へのアプローチについて論じている。

Smith 1994は、義務の衝突、撤回可能性、違反可能性、義務違反時の条件法についての興味深い非形式的な議論を含んでいる。

義務論的概念が撤回可能推理(inference)関係に特有のことに貢献しているかどうかはきわめて議論の余地があり疑わしい主題である(撤回可能条件法とは異なり)ので、ここではこの問題を脇に置き、条件法に戻って、最も注目を集めている義務論理の問題に戻ることにする。

文献

  • McNamara, Paul, “Deontic Logic”, The Stanford Encyclopedia of Philosophy (Summer 2019 Edition), Edward N. Zalta (ed.).
2020年3月20日
2021年8月14日
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