哲学覚書

Starr (2016) の覚書

1. The Virtues of Dynamic Expressivism: a Sketch

まず、合理的な行為者性において表象的状態と動機づけ状態との役割の単純なモデルから始めるつもりである。それから、この枠組みを用いて義務論的表出主義を明確に述べ、それがいかにしてフレーゲ・ギーチ問題を引き起こすかを示す。このことによって私は、動的表出主義とは何か、そしてフレーゲ・ギーチ問題を解決することにとって動的表出主義が真理条件意味論よりもいかに適しているかを示すことができるだろう。

期待効用理論によれば、信念・欲求は理論的に区別されうる。これはもっともらしい区別である。

これを背景として考えると、「φすべきだ」という文の発話は効用関数を表現していると表出主義者は言いうる。u(φ)の値が何らかの基準よりも大きいことを意味している。これに対し、主観主義者は、「φすべきだ」は効用関数についての命題を表現していると言うだろう。また、自然主義者なら、「φすべきだ」は世界についての信念(効用とは無関係の信念)を表現していると言うだろう。

フレーゲ・ギーチ問題の説明。

「φすべきだ」と「φすべきだというわけではない」が矛盾していることを表出主義でどう説明するか、というのは外的否定問題。「φすべきだ」と「φしないべきだ」の矛盾は、内的否定問題。それぞれ、異なる解決策が必要。

ギバードはこれについて解決策を述べているが、十分なものではない。ギバードの説明では、具体的にどんな効用関数が表出されているのか、いかにして二つの効用関数が衝突しているのか、を説明できていないのだ。[ギバードは別に「効用関数」という概念は使ってないので、ギバードのまとめ方がこれでいいのかちょっと疑問。]

ドライアやシルクは選好表出主義を展開している。これは、義務文の意味論を選好順序の観点から定式化するというものだ。Starr (2013) も同様の戦略を取っており、これによってギバードのアプローチにおけるギャップを埋める形で内的否定問題は解決されうる。ただし外的否定問題はこの方法では解決できない。

選好表出主義の簡略的な説明。[「こういうふうに内的否定問題を解決できる」と実際に示してみせる。ただし外的否定問題はこの方法では解決できない、と再度強調。]

Silk (2014) のような選好表出主義だと、外的否定問題を解決できない。これは簡単なモデルを考えれば分かる。

選好表出主義は、Oφと¬Oφの矛盾を、導入される選好順序が矛盾を来すということによって説明しようとして失敗した。動的表出主義は、そうはしない。「φすべきだ」は¬φよりもφを選好するという選好順序を導入するよう働きかける一方、「φすべきだというわけではない」は「φすべきだ」によって導入されるような選好順序を差し引くという仕方で選好順序に働きかける。Oφと¬Oφは、動的に矛盾しているのである。あるバーで、「空のグラスにはウォッカを注げ。中身の入ったグラスは、その中身を吸引せよ」と命令されたロボットのことを考えてみよう。このロボットは内容的に矛盾した命令を下されたわけではない。しかし二つの行為は、「ロボットの両方の行為が達成された状態のグラスなど存在しえない」という意味で、矛盾しているのである。Oφと¬Oφの矛盾も、これと同じ意味で矛盾していると言える。後述するように、非動的説明では、φと¬φが根本的に異なるコミュニケーション効果をもつという考えを受け入れる余地がない。

外的否定問題への動的アプローチは、内的否定問題への選好表出主義的アプローチと見事に結びつく。[OφとO¬φ、Oφと¬Oφの矛盾について、形式的な説明の直観的意味が述べられる]

動的説明の形式化は、行為論理を必要とする。幸い、動的論理(Harel et al. 2000)の研究が進んでいる。これは計算機科学で発展し、自然言語意味論にも影響を与えている論理である。動的論理の特殊な場合として古典論理が得られる。

2. Expressivism and Communication

表出主義の三つのテーゼ。

  1. コミュニケーション:「ある心的状態を表出することは、〈主体がその心的状態に陥っている〉と言うことではない」(Gibbard 1986: 473)。
  2. 説明:「文の意味論的性質は、根本的に、それら文の発話によって慣習的に表出される態度の性質の観点から、説明される」(Silk 2014: §1)。
  3. 非表象:文によって表出される心的状態は、非表象的であり、より具体的には、動機づけ的(motivational)である。

説明テーゼは、コミュニケーションテーゼを仮定している。もし説明テーゼだけあってコミュニケーションテーゼがないならば、おかしなことを言っていることになる。というのもこの場合、「φすべきだ」と「φしないべきだ」の矛盾を態度の性質の観点から説明するとは、「本は紙でできている」と「本は紙でできていない」の矛盾を本の性質の観点から説明するも同然だからだ。それゆえ、説明テーゼの正当化はせいぜい表出主義の部分的正当化にすぎない。現代の表出主義者はこの点を見過ごしがちである。

第一節で見たように、ギバードは¬Oφの内容を積極的に特徴づけることを拒否している。しかし、¬Oφの内容の積極的な特徴づけなしに、¬Oφということを誰かから伝達されたときその行為者の心的状態はいかに変化するのかを積極的に特徴づけることはできない。[…]表出主義者は、真理条件意味論を採用できない。

表出主義者のコミュニケーションテーゼが私の焦点だけれども、説明テーゼについての言葉は整理されている。そのテーゼ[説明テーゼ?]がここでもたらされた見解に当てはまるかどうかは言うのが難しい。というのも、この見解は文に対してその文が表現する態度や心的状態を割り当てることによっては進展しないからだ。さらに、すべての文の意味論的性質は、その文が更新する心的状態の性質の観点から説明されうると言える。[…]心的状態を表現している文について話すことを心的状態を更新する文について話すことに置き換えることによって、それらの状態(例えば注意や選好)の非表象的次元に訴えるような説明に焦点を当てることによって、人は、説明テーゼの周辺における何かを取り戻すことができる。

動的表出主義の説明テーゼ 表出的な文の意味論的性質は、根本的に、その文が言語使用者の心的状態の非表象的次元を更新する仕方の観点から、説明される。

このような表出主義はメタ倫理学にとって注目するに値するだけでなく、自然言語の意味の研究においても注目するに値すると思われる。

表出主義は難解な哲学的教義のように思われるかもしれないが、そのコミュニケーションテーゼは常識的な観察からして馴染み深いものである。「アブってあんな姿なんだねえ」と言うとき、話し手は「私はアブに注意を向けている」ということを聞き手に伝えている。しかし話し手は自分の「注意を向けている状態」について指示しそれについての事実を述べたというわけではない。つまり「私の注意しているという状態はこれこれだ」というふうに言っているわけではない。コミュニケーションテーゼが言っているのはこういうことである。むろん、ここでは義務論的な語は使われていない。表出主義者は、この種のコミュニケーションがいかにして一般に言語的領域において(特に義務論的領域において)行なわれているのかを言わなければならない。

§3では、命題論理の真理条件意味論を提示し、論理・合成性原理・コミュニケーションがいかにして指示に依存しているかを強調する。§4では、この枠組みの拡張を用いて否定問題を解決し表出主義的なコミュニケーションの説明を与えようとする試みを批判的に検討する。この議論は動的意味論へとわれわれを進ませるだろう。§5では、古典的意味論から離れる基本的な方法を説明するために、命題論理の動的意味論を提示する。§6では、義務論的言説に対する動的意味論を与え、他のアプローチにとっての困難に動的表出主義がいかにして取り組むかを説明する。

3. Logical Semantics, Classically

論理的意味論は、言語学的意味のモデルを提供してきた。このモデルは三つの仕方で役立つ。

  1. 意味の合成性を説明できる。
  2. 論理性を説明できる。つまり、「AからBが論理的に導出される」のはなぜか、「AとBが矛盾する」のはなぜか、を説明できる。
  3. 文を使うことで伝達される基本情報の説明を提供してくれる。

論理的意味論は、もっぱら指示的な意味論的概念を用いることでこれらを達成する。

命題は可能世界の集合である。命題φを言うことは、〚φ〛という可能世界の集合(φが成り立つような可能世界の集合)を示し、そこに含まれないような可能性を除外することである。しかし表出主義者はこのような説明に是認できない。規範文は何も指示せずに心的状態を伝達するからだ。

ブール代数的な論理的意味論の説明。そして、この意味論は完全に指示的なので、この意味論を基礎としつつ義務演算子だけ表出主義的な説明をするということは難しいと予想される、という話が続く。

帰結関係、無矛盾性、という概念の定義の説明。

文献

2020年5月1日
2021年8月14日
#ethics #logic #language